感想
なんといっても演出がいいですよね。
タイムリープが始まるまでの序盤、和子と一夫、そして吾郎の日常を描いているシーンにはとても惹きこまれます。
説明口調の台詞やわざとらしく派手な演出を使うのではなく、学園生活や登下校の様子、放課後の過ごし方といった情景を密やかなBGMとともに流すことで、青春時代独特の雰囲気を上手く醸し出しています。
本ブログで紹介したことのある映画の中では、意外ですが「リズと青い鳥」にその演出方法がどことなく似ている気がいたしました。
特に必見なのが、学校ではお調子者の吾郎が家業である醤油づくりを真剣に手伝っているシーンと、和子から返してもらったハンカチの匂いを嗅ぐシーンです。
どんなに「普通の女の子」を演じていても一流アイドルの雰囲気を振り払うことができない和子(=原田知世)と、未来人なので独特な話し方をするというSF的非現実設定を背負った一夫とは対照的に、この吾郎という高校生には生々しいまでに現実の影がつきまといます。
イケメンではなくて、学校では三枚目のポジションで、でも、家業に対して真剣に向き合っていて、おそらく抱いているであろう和子に対する好きという気持ちに対してもどかしくなってしまうような、そんな青春を送っている男の子。
こういう人間を「魅力的なヤツ」として描くことはむしろ最近の作品がやらなくなっている(できなくなっている)ことでしょう。
また、脚本に目を向けますと、ラストシーンの感動が際立っております。
自分が未来人なのだと一夫が和子に打ち明け、和子の記憶では幼馴染であるはずの一夫と和子はまだ出会ってから一ヶ月しか経っていないと言うのです。
一夫曰く、和子が持つ幼少期から培ってきた一夫との想い出は全て、一ヶ月前に一夫が和子の頭の中につくりだしたもの。
けれども、そうやって想い出をつくり、敢えて和子に接近したのは、一夫が和子のことを好きになったから。
和子の記憶は段々と「本物」の記憶、つまり、一夫が存在しない世界線の記憶へと「正常化」されていくのですが、それでもなお、和子もまた一夫が好きなのだと言ってのけるところがいいですよね。
あまりにも面白みのない性格の一夫をなぜ和子が好きになるのかは疑問ですが、ただ、「お互いがお互いのことを好きなのだと分かった瞬間に永遠の別れが来てしまう」という山場の作り方はやはり心動かされます。
理科実験室で必死に愛を打ち明けあうという場所選びも、学園ノスタルジー的心理に響いてきて切なくなりますね。
ただ、脚本的に起伏といえる点がここしかないのはイマイチ。
良い演出の効果もあり「雰囲気」に引っ張られて飽きずに視聴を続けられる作品ではあるのですが、常に夢中になるというわけにはいきませんでした。
また、SF的な表現方法が昭和臭いのは仕方がないとして、そういったチープなSF的演出が長々と続く場面はやや視聴に耐えがたかったです。
SFメインというより、叶わぬ恋や過ぎ去った学園生活への憧憬と喪失感で魅せる映画なのですから、SFの尺をもっと短くして、学園生活的波乱をもう一幕入れた方が面白くなったのではないでしょうか。
結論
良い部分もあれば悪い部分もあるという映画であり、しかも、旧い映画なので、高校生の台詞回しの古臭さやSF的演出のチープさもあります。
ノスタルジックな学園青春ものが好きだという方や「時をかける少女」シリーズの原点についてもっと知りたいという方で「昭和の映画」的なものに耐えられる、あるいはそれを楽しめるという方にはお薦めです。
ただ、素晴らしい映画が次々と公開され、過去の名作たちも手軽に見られる現代社会において、敢えて優先度を上げるほどではないと感じました。
コメント
初めまして。映画ブログを運営しているものです。
時をかける少女のアニメ映画は観たことありますが、その原作ともいえる映画あったとは知らなかったです…
結構お気に入りのアニメ映画なので、この古い映画も気になります。
やはり今の映画と比べると見劣りするでしょうが、改めて昭和の映画に触れてみたいという気持ちもあるのでちょっと観てみたいですね。
応援完了です!
はじめまして。ブログをご覧頂きありがとうございます。
オレンジさんのブログも面白いですね。ブログ村の応援クリックいたしました。
私もアニメ映画版のファンで、そこから情報収集するうちにこの実写映画版に辿り着きました。
「昭和に『時をかける少女』の実写映画をやったら確かにこんな感じなのだろうな」という作品で、
アニメ映画版や原作小説と対比しながらだと楽しめると思います。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。